Entries

読書録:『胃ろうという選択、しない選択』


母がいずれは口からモノが食べられなくなるのではないかと怯えつつ、読んでみた。

著者はちょっと前に読んだ『抗がん剤 10の「やめどき」』という本を書いた人(そのときの読書録はこちら)。

「町医者」として多数の看取りを実践している立場で、日々多くの人から相談を受ける「胃ろう」という問題について解説した本。著者は基本的には胃ろうは反対の立場であるのだけれど、全面的に否定するわけではなく、「ハッピーな胃ろう」もあるのだということも強調している。

一般的に「胃ろう」を避けたいものと思う人が多いという現状で、頭から毛嫌いするものではなく、それをしたほうがいいケースだってあるのだという話が、前半の方で繰り返し出てくる。

「ハッピーな胃ろう」とは、脳梗塞などの急性期に一時的に栄養を補給するためとか、口からも食べられるけれども、補助的に胃ろうを使うことで状態を良くするとかの使い方。あくまで一時的なものとして、それをすることで全身状態やQCLの改善が期待される場合だ。そういうケースで頭から胃ろうを拒否するのは「もったいないこと」とも言っている。

胃ろうは一度始めるとやめられないものかと思っていたけど、そういうわけではないらしい。口から食べられるようになるならば、技術的にはやめることは全く問題がない。ただ、回復の見込めない状態で使うと、実際はそれをはずすと死に至るという状態になってしまうために、それは「殺人行為」となってしまい、現実的にむずかしいということらしい。

胃ろうのメリットもきちんと説明した上で、そういう「アンハッピーな胃ろう」の話になる。がんばればまだ口から食べられないわけではないのに、施設で受け入れてもらいやすいという理由で胃ろうを作るケースも多いという(その方が介護が楽だから)。

誤嚥(うまく飲み込めなくて、食べ物が気道に入ってむせる)のキケンから胃ろうを作るというケースも多いけれど、食べ物を口から食べなくても、唾が気道に入って誤嚥するケースはあるので口腔ケアや嚥下リハビリは欠かせない。でもそれをキチンと対応できるケースも少ないと。

そもそも胃ろうというものがどういう手順で行われるのかとか、鼻から入れるチューブなどとどう違うのかという説明も分かりやすかった。

胃ろうをつくるときは、口から内視鏡を入れるために、口や食道に病気のある人はできないとも書かれていた。ということは、うちの母の場合も、そもそも対象外なのかもしれない。

とはいえ、父や義父母、そして自分が年老いたときのために、読んでおいて良かったと思う。

最近この手の本ばかり読んでるけど、こうやって知識を蓄えておくことは、親のことだけじゃなく、自分の老いや死を考える上でも役に立つこと。そう考えると、まだ元気なうちに勉強する機会をもらってありがとうって感謝するべきなのかな。

読書録:『村上さんのところ』


村上さんとは、毎年ノーベル舞楽賞候補と噂されてるあの村上さん。

Webサイト上で公募した一般の人からの質問メールに対して、村上春樹自身がお返事を書くという期間限定のイベントがあったらしい。そのサイト名が「村上さんのところ」。17日間(だったかな?)に寄せられた3万7465通のメールに、本人がすべて目を通し、お返事を書いた3716通の中から、さらに473を選んで収録したのがこの本。(3176通分すべてが読める電子書籍版もあるらしい)

質問の内容は、すごーくくだらないものから深刻なモノまでさまざま。熱狂的なファンが多いけど、中には「どこがいいのかさっぱり分かりません」みたいなのも(反応を知りたくてわざと書いてる?)。

それに対して、ときに気の抜けた、ときに心のこもったお返事を書いている。

一応断っておくと、私自身はハルキストじゃない。(本人はこの呼び名が嫌いで「村上主義者」と呼びたいらしい)

昔『ノルウェイの森』はそれなりにおもしろいと思った記憶があるけど、小説でその後で読んだのは『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』ぐらいかな。どれも、「?」というのが正直な感想で、今となってストーリーもまったく覚えてない。(たぶんほとんど流し読み)

なので、投稿の大多数を占めるハルキストたちの、「あの小説のあのシーンで」みたいなのはほとんどついて行けなかったけど、それを差し引いても、ファンじゃなくても、この本自体は面白かった。

ちなみに、村上春樹の小説は好きじゃないけど、エッセイは割に好き。『遠い太鼓』とか。あと、エッセイでも小説でもない『アンダーグラウンド』(地下鉄サリン事件の被害者のルポ)も良かったと思う。だから、彼の素の文章や考え方自体は嫌いじゃないのかも。

この本は、そういう意味で、より「素」な感じなので、違和感がなかったのかな。ということで、ハルキストな人はもちろん、そうじゃない人も、「村上春樹って良く名前聞くけど、どんな人?」なんて気になったら、他の本よりは気楽に読めていかも。





読書録:『哀しみを得る』


看取りのお勉強シリーズ?

著者は私より4歳上の女性。2014年に実母が83歳でくも膜下出血で倒れ2年後に亡くなるまでの体験記。

この人の場合は、昨日までピンピンとしていた母に突然訪れた病ということで、精神的ショックもかなりのもの。それでも、亡くなるまでの2年の間、病院や介護施設を転々とする母を、仕事を続けながら父や子供たちと共に介護する。その経過を淡々と振り返りながら、そのときに学んだ「看取りのためのレッスン」を伝授してくれる。

実は「レッスン」というほどの大したことではなく、自分がその立場になってみて初めて分かったこと、感じたことを、そのまま書き留めてるっていう感じかな。

私とはいろいろ状況が違うので、感じることも違うかなとは思うけど、ひとつ印象に残ったのは、病院や介護施設のスタッフとのやりとり。

母にずっと付き添う父が感情的になりスタッフと衝突したときのこと。興奮気味に不満を伝える父の電話を受けた後、夜静かになった時間を見計らって病院に電話を入れ、そのスタッフに侘びる。「父はいっぱいっぱいで見えなくなっちゃってて。でも、悪いこと言ったって気にしてるみたいだから許してあげてください」と。そう言われるとスタッフの方も理解してくれて、「こちらこそ言葉が足りなくてすみませんでした」と言ってくれる。

さらに、スタッフのミスで点滴の針がベッドの中に残っていたという事件。もちろん抗議はして、上の人が平謝りに来る自体になったけど、そのことで本人がやめてしまうのではと心配し、直接呼び出して「今日のことを忘れずにいれば、あなたは注射針の扱いについて世界一慎重な介護士になれる。がんばって」と伝える。

そんな経験を重ねて、スタッフとの良い関係を築いたという。

よく、病院の先生や看護師さんに、お金やお菓子を渡すことの是非が問われるけれど、そして、実際にそれを当てにしているスタッフもいるらしいけど、でも、そんなものより、こういう心遣いの方が
はるかにお互いの信頼関係を築くには効果的なんだろうなと。結局は人と人。

そんな心の余裕が実際に持てるものかどうかは分からないけど、覚えておこう。それが私にとっての「レッスン」ってことね。


読書録:『外国語を学ぶための言語学の考え方』


前に何冊か本を読んだことがある、言語オタクとしか思えないスラブ語学者の本。

前書きによると、言語を料理に例えれば、語彙が食材、調理が文法。その二つに加えて料理をおいしくするスパイス、それが言語学であると。言語学的見方を知ることで、言語の「おいしさ」がより味わえるようになるという。

とはいうけれど。

ハッキリ言って、このスパイスはもう完全に趣味の領域という感じ。多くの言語に精通する著者の見識を活かして、いろいろな言語にある共通する点、違う点などを挙げながら、「言語学的な」見方をレクチャーしてくれるけれど、それを知ったところで、言語をしゃべれるようになったり、読み書きできるようになったりするのに、スグに役立つものではないのだ。残念ながら。

とはいえ。

単にへー、ほー、いろんな言葉があるのね、というオドロキながら読み流す分には、まあまあ面白かったと思う。けど、そういうことを「面白い」と思える人は、あまり多くはないんだろう。

たとえば。

日本語にはない、単数と複数の問題。英語に限らずヨーロッパの他の言語にはよくあるよねと思ったら、世の中には「両数」という概念がある言語もあるそうで。つまり、単数と複数を区別するだけじゃなくて、1つ、2つ、3つ以上と3種類に区別すると。さらに上には上があって、「三数」という概念、つまり、1つ、2つ、3つ、4つ以上と4種類に区別すると。

ひょえー、だよね。

めんどくさい!と思うけど、そういう分類をするには、それなりの文化系背景があるはずで……と考えると、なかなか面白いと思う。

まあ、要するに今はやりの「使うための」、コミュニケーションや情報収集の道具としての言語ではなく、あくまでウンチクとしてってことかな。

ついでに、この黒田さんという先生の、「どうせ私はオタクですよ」という達観した感じが、別にこの本の内容を理解できなくても、覚えなくても、全然問題ないのだわと思わせてくれてよいのかも。

読書録:『純情ヨーロッパ』


この前、『ダライラマに恋して』という本のことを書いたけど(そのときの日記はこちら)、同じ著者の本。去年の暮れに出ている本なので、こちらの方が最近の話ということになる。

で、この本は、18年勤めた会社をやめて行った、2カ月でヨーロッパ21カ国を回る旅のエッセイの前半。すでにたくさんの旅本を出している彼女は、どれもかなり高いレビュー評価を得ているだけあって、この本もとても面白かった!

この前のダライラマの本は、因果応報とは何かとか、仏教の概念に突っ込んだ深い、ちょっとむずかしめな話が多かったけど、この本はもっとお気楽に、彼女がいろんな国で見聞きして感じたことを、ストレートに綴っている。

旅と行っても、名所旧跡を回るのではなく、各地で1つ自分が決めたミッションをこなす旅。たとえばデンマークなら「世界一幸福度が高い秘訣を探る」とか、オランダなら「レンタサイクルを満喫する」とか。何かを体験することが主体なのだ。

そして、その先々でいろいろな人に声をかけ、交流を楽しむ。その話が、というか描写がとても生き生きとしていて、臨場感たっぷり。登場人物のスマイルショットも収録されていることもあって、旅の楽しさがリアルに伝わってくる。会話を録音してたわけでもなかろうに、よくもこんなに細かく再現できるものだと感心してしまうけれど。

特にパリの宿で出会ったゲイのオーナーの話、南仏のヌーディストビーチの話などは、ビックリ仰天でなかなか刺激的。下ネタも満載なんだけど、あっけらかんと素直に書いてるので、その手の話題が苦手な私でも嫌悪感もなく読めた。

旅先でいろいろな人とのふれあいを通して、彼女は、仕事をやめてやりたいことをやるという自分の人生の選択についても思いを馳せる。そして、「できない」「無理」と思っていたことは、実は自分で自分に蓋をしていただけなんだということに気づく。

彼女と同じように一歩踏み出せずにいる人にとっては、旅云々は別としても、勇気をもらえるんじゃないかな。

ただ、もちろん実際には、女の一人旅、いくら40のオバサンとはいえ、危険なこと、不愉快なこともたくさんあったはず。そういうマイナスな話も多少は出てくるものの、笑い飛ばせるか、災い転じて福と成すみたいなオチになっているので、本当にキケンな感じは一切伝わらない。なので、若い子が鵜呑みにして、無防備に旅に出ちゃったら怖いななんて、老婆心も感じてしまったけどね。

この旅の後半も、ぜひ読んでみよう!

Appendix


クリックで救える命がある。

Profile

びっけ

関東在住で松田聖子と同じ年。フリーでライターをしてます。

Extra

カレンダー(月別)

02 ≪│2017/03│≫ 03
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

最近の記事

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: