読書録:『新・観光立国論』



著者はイギリス人アナリスト。元ゴールド・サックスマン社のエリートで、今は日本に家も持ち、自ら茶道もたしなむなど日本文化をこよなく愛し、国宝や重要文化財の補修する老舗の会社の社長をしているという人物。

冒頭で繰り広げられるのは、なぜ観光立国が必要かという話。(この前提については、ここの記事にもだいたい同じようなことが書かれている)

・日本の人口が減りつるある中、経済成長をするためには人口を増やすしかない。
・少子化対策も移民政策も期待できないとなると、一番有望なのは、短期移民=訪日観光客を増やすこと

という前提で、訪日観光客を増やすには、つまり観光立国となるには?という視点で、現状の問題点と提言が続く。

著者によると、日本は観光立国になるためのポテンシャルは十分あるのに、それを生かし切れてないそうだ。その「何がいけないのか」という点については、そもそも「おもてなし」が魅力になるとは大きな勘違いであるとか、なかなか日本人にとってはショッキングな論が展開される。

具体的な提言としては、ポイントはいかにお金を落としてもらう仕掛けを用意するか。「経済効果」を期待するためには、富裕層にとって魅力的なコンテンツやシステムを用意すべきと。日本には本当の大金持ちが来ても泊まるべきホテルもなければ、お金を使う場所もないことも大きな問題であると。

正直、日本人としてみれば、「いや、そうはいっても」「だって」とか、いろいろ反論したくなる部分はある。彼はイギリス人なので、どうしても西洋人の目線に偏る部分もあって、アジア人から見たらまた話は違うだろうと思う部分もある。

けれども、大多数の西洋人から見て、「これが不便」「これが不親切」という指摘はどれももっともなことばかり。日本人が納得できないとしても、本当に彼らにたくさん来て欲しいと思うのならば、「言い訳」はおいておいて、真摯に耳を傾けるべきだと思う。

その「日本人は納得しないだろう」というのも、おそらく著者は織り込み済みで、あえて反論承知で書いているのだと思われる。その点については、観光を外貨を稼ぐための産業だと割り切ることが大事だとも指摘している。

まさしく、問題はそこなんだと思う。

最近、訪日観光客が増えたとか、増えるといいとかいう話をよく聞くけど、いつも感じていたのは、本当に日本人みんながそう思ってるの?っていうこと。インバウンドで直接利益のある人はともかく、そうではない人にとっては、犯罪が増えるのではとか、秩序が乱れるのではとか、心配することも多い。日本の国内に山積みのいろんな課題を後回しにしてまで優先的に観光客誘致に取り組もう!っていう意思を持ってる人がどのぐらいいるのか。

もしかしたら、そもそも経済成長って本当に必要なの?ってところから賛否が分かれちゃうかもしれないのが今の日本かなと。

「本気」になりさえすれば、まだまだできることはたくさんあるし、可能性は大きいと思うのだけれど。

個人的には、自分も海外旅行が好きだから、海外の人にもたくさん来てもらいたいと、単純に思うし、日本の経済をよくする特効約が観光だっていうのも、説得力があると思う。

この本には、「その気」になった人が読めば、すぐにヒントになりそうな具体的なアイディアもいっぱい書かれている。文化遺産に、外国人が見てその価値や意味が分かるような説明や仕掛けを用意するなんていうのは、国内の観光客にとってもメリットがあるだろうし。関係する立場にいる人は是非ぜひ参考にして欲しいと思った。

内容とは関係ないことで付け足し。

この人、基本的にひとりで全部日本語で書いているらしいのだけれど、その文章力に恐れ入った。てにをはがちゃんとしてるというレベルではなくて、ちゃんと日本語の文章として違和感のない論旨展開をしているというところがすごい。翻訳物を読んでいると抱く違和感みたいなものがまったくなくて、日本人が読み慣れている、日本人が読んでストンと理解できる順序で文章を展開していく力。こんな明快な文章が書けるようになりたいもんです。


2015.10.13 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 読書録



コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

カレンダー(月別)

09 ≪│2017/10│≫ 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: