読書録:『この子を殺してくださいという親たち』




物騒なタイトルだけど、内容もかなり重たい本。

著者の職業は、「精神障害者移送サービス」。精神障害などで問題を起こしている人を医療につなげるという仕事らしい。

「はじめに」で冒頭にふれているのは、佐世保での女子高校生殺人事件の話。以前から問題行動があり、精神科の主治医も危険を察知していながら、なぜあんなことになってしまったのか。報道に接した多くの人が感じたこの疑問。著者の立場からすると、この事件の予備軍になるような事例は日本中にたくさんあるらしい。

第一章では、著者が実際に関わったケースの事例が紹介される。引きこもりや問題行動、家庭内暴力、第三者への迷惑行為や傷害事件。家族ではもう面倒を見切れなくなり、医療施設に連れて行きたいのだが本人が納得しない。そこで著者の会社に依頼が来る。事前の調査を進めた上で、本人を説得し、受け入れてくれる医療機関を探して、つれて行く。

しかし、問題はそこでは終わらない。精神病院に入院したって、すぐに普通の生活が送れるようになるわけではない。それでも、治療方法がない、本人が退院したがるなどの理由で、3カ月もすると追い出されてしまう。病院の経営上の問題からも長期入院をさせてもらえないというのは老人問題と同じだ。そして振り出しに戻ってしまうという現実。

どの事例も本当に痛ましくて、家族の苦労や心痛は計り知れない。特に、親はともかく兄弟にそれがふりかかってくるとなると、もう本当に気の毒としか言いようがない。

全部で7つの事例が出てくるのだけれど、すべての話が何の解決もしないままで終わってしまっているので、読んでいる方もやりきれなくなってしまって、「もう、いいよ」って言う気分になって、読み進めるのが辛くなる。

無関係な読者は本を閉じてしまえばいいけれど、家族はどうすればいいのか。家族がいっしょに暮らすのも限界、かといって預かってくれるところはない。実際に家族を殺してしまう、あるいは思いあまった家族が本人を殺してしまうという事件も発生している。家族だけじゃなく、第三者に危害が及ぶこともある。そうなると、関係のない人たちだって他人事とは言えなくなってくる。恐ろしい話。

第二章以後では、そうした精神疾患を抱えた人たちの実態やそれをめぐる法的、社会的なシステムの問題点、解決策への提言などが書かれている。

問題の一因は、そういう状態になっている人が果たして病気なのか、性格なのか、環境によるものなのか、その複合的なものなのか、その境界がものすごく曖昧なこと。精神病院に行ったとしても、すぐに明快な診断が下って治療法があるというわけでもない。そして、トラブルを誰が対処するのか。病院?警察?保健師?その辺の問題も、むずかしい。

昔と違って人権がうるさく言われる今日、危険行動があるからといって、強制的に拘束できるとは限らない。それを預かる病院だって大変だ。最近は老人介護施設での虐待などのニュースをよく聞くけれど、家族に代わって面倒なこと、嫌なことを押しつけられる職員の立場になってみれば、待遇がよいわけでもないのに、そんな職に就きたいと思う人がどれだけいるのか。なんてことも考えると、施設を増やしてぶちこんでしまえばいいというわけにもいかないだろうし。

本当に難しい問題。

そういう、社会的に危険因子となるような人が、ある一定数存在するというのは未来永劫変えられないような気もするし、本人の人権もさることながら、家族の幸せ、社会の平和を保つためには、どのような受け皿を用意すればいいのか。

およそ答えの出なさそうな話なので、読んだ後はずっしり心が重たいのだけれど、世の中にはそういう現実があるのだということを頭に入れておくのは必要なことなのかと思う。だからといって、自分に何ができるとも思えないし、何かをしてあげたいと思うこともできないのだけれど。


2015.11.14 | | コメント(2) | トラックバック(0) | 読書録



コメント

ハイエナビジネスに注意しろ

思い通りにならない厄介者は死んでもらったほうがいいーそう考えることもあるのは病者がいる家庭では良くあり、若くエネルギーのある子供が親を恨んで暴力を振るうケースも昔から珍しいわけではない。

精神科医や精神科病院が理不尽な人権蹂躙ともとれる対応をして事態をややこしくすることもあるし、患者同士の不快な体験が本人を捻くれさせる場合もある。30年程前は、精神科にかかるのは、半ば見捨てられた子どもだけだった。現在は学校が精神科通院を勧める点でも敷居が下がり、望ましくない方向へ向かっていると感じる。
精神科業界に対応をさせると、利益誘導かつ患者抑圧となると思う。精神科医は解決方法を持たないからだ。
この筆者も別の素顔を持っている可能性がある。

投薬は病院の仕事、犯罪行為取り締まりは警察の管轄、子どもとの日常の関わりは家族の役目であるから、シンプルに犯罪者の家族はどうすべきかと考えれば良いと思う。ハイエナビジネスである輸送業者や病院管理者を頼ってはいけない。精神保健の世界は人非人の世界で、深入りしてマトモになった人は少ない。
精神医療の世界に関わらず最小限の人間関係で相談を行うべきであろう。行政・警察は当てにならない。しかし精神医療もそれ以上に信頼できない。犯した犯罪を通常人間は償おうとする。しかしこともあろうに医療から不当に傷つけられた場合、当事者の恨みは深い。罪の意識があるのであれば、服役して出所してもらい居場所をつくった方が感謝される。親は腕でも差し出して本人に責任取らせた方が強制入院よりはマシである。

2016/05/06 (金) 17:35:23 | URL | ゴン #3iBi5bao [ 編集 ]

ゴンさんへ

精神病に限らず、とかく医者に診せればなんとかなると思い込みがちだけど、実際はそれでは解決しないケースも多々あるわけで。誰に、どこに、すがればいいのか、むずかしい問題です。

2016/05/07 (土) 10:33:56 | URL | びっけ #- [ 編集 ]

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