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読書録:『医者が妻を看取る』


サブタイトルは「夫婦でがんと闘った3年10ヵ月の記録」。

著者は聖路加病院に勤務する医師。京都大学助教授の肩書も持つエリートだ。そんな彼の妻に、ある日進行した大腸がんが見つかる。よりによって自分の専門であるこの病を得た妻に、夫として、医師として寄り添った月日を、日記形式で振り返った本。

毎年人間ドッグを受けていたのに、見つかったのは進行がん。「もしあのとき」的な後悔はなく、仕方ないと淡々と受け入れるのはさすが。そして、本人である奥様も事実を真正面から受け入れ、夫を信じ、できる限り前向きに、がんと闘っていく。

4度の手術、放射線治療、抗がん剤治療と、そのときどきでできるベストな治療を受ける間も、弱音も履かずにけなげにがんばる妻。患者の家族という立場に動揺しながらも、冷静にそれを支える夫。夫婦の昔の思い出なども交えながら、刻一刻とせまる「そのとき」までの日々が具体的に綴られていく。愛する妻を助けたい、少しでも楽にしてあげたいという医師の気持ちが痛いほど伝わってくる。

夫婦の絆3年10ヶ月後に他界してしまうシーンにはさすがに涙が止まらなかったけれど、全体としては、悲しいというよりも、立派にがんと闘った夫婦の美しい姿が印象的。事実を事実として受け止め、懸命に生きた最期の日々に拍手を送りたい感じ。きっと、この本を書き終えたとき、夫である医師自身も、「私たちは精一杯やったんだ」という一区切りがついたんじゃないかと思う。

あえてイジワルな言い方をすれば、その間、争いやネガティブな感情がまったくなかったわけではないと思うけれど、妻をなくして2年後に書いたというこの本の中では、そういうものは封印されている。

ただ、この患者さんは、ある意味ものすごく恵まれた境遇。愛する夫が専門的な知識を持ち100%患者のためを考えた治療をしてくれる。それを支える医療チームも、きっと破格の待遇をしてくれただろう。そこにはお金や順番待ちの心配はない。

闘病生活の間も、たびたび音楽会やディナー、各種の祝賀会、そして温泉旅行に出かけるという華やかな生活。日野原先生や皇族とも直接お話のできるハイソな身分。おそらく、これ以上恵まれたがん患者はいないのではないだろうか。

実際に同じように闘病する人にとっては、うらやましいなぁとため息をつきたくなっちゃう人もいるかも。

昔、『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』という、不治の病で死んでいく医師の本(映画やドラマにもなった)を読んだ時、世の中で一番不幸なのは、自分の死を悲しんでくれる人がいないこと、治る方法があるのにお金がなくて治療できずに死んでいくこと、という話があった。

それでいくと、この奥様は、そのどちらも申し分のない形で叶えられていたわけだから。

なんて僻みっぽい感情はともかくとして、今自分に与えられている一日を精一杯生きることの大事さを感じさせてくれる一冊だと思いマス。




2018.05.06 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 読書録



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