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読書録:『死にゆく人の心に寄りそう』


看護師であり僧侶でもある、というユニークな経歴を持つ女性が、死への向き合い方をテーマに書いた本。

看護師として働いていた彼女は、夫のガン闘病と看取りを機に出家し僧侶となった。以後、看護師として働きながら、宗教家としての見識も生かして「死にゆく人」やその家族にいかに寄り添うかという活動を続けている。

ガン再発後の夫が一切の治療を拒否して自宅で2年間を過ごし、在宅で「自然死」する。看護師の立場からすれば、まだできるはずのことをせずにただ死を待つのみという状況は耐え難かったが、夫の意思を覆すことはできなかった。最後は休職して彼に寄り添う日を重ね、看取りの経験を経て、最終的にはそれを肯定的に捉えるようになる。

冒頭は、「死にゆく人」が実際どんな経過をたどって死んでいくのかが詳しく描かれる。3ヶ月前、1ヶ月前、数日前……。在宅での自然死を阻む要因として、家族が「死にゆく人」がどんなふうに死んでいくのかを知らないためにうろたえてしまうという点がある。今までに読んだ本の中でも、自然死を推奨する訪問医はその時が来る前に家族に十分な説明を行うという話があった。この本では、冒頭の50ページ程を費やして、まさにその部分を詳細に綴っている。

その上で、看護師時代、そして夫の看取りから出家の経験と共に、そのときどきでの心の動きを振り返る。出家後看護師の仕事に戻ったとき、「剃髪した看護師」に対して、終末期の患者が普通の看護師だったときには言われなかったような心の内を明かしてくれるようになったという。

そこで、「宗教と医療の間のケア」の重要性に気づき、さまざまな勉強会も開くようになる。本の後半では、日本では2018年に資格が認められたばかりの「臨床宗教師」について触れている。布教や伝導を目的とせずに、苦しみを抱えた人に寄り添う存在とされ、宗教の種類は問わない。お隣の台湾ではその存在が社会的にも認知されていて、僧侶が死に対する心のケアを担っているという。

台湾と日本での事情の違いにも触れながら、日本でもこのようなシステムが浸透していくことを目指すという彼女の夢が語られている。

実は以前、同じ人が書いた『まずは、あなたのコップを満たしましょう』という本を読んだはずなんだけど、読書録が見当たらない。タイトルから想像できる範囲内の話で、可もなく不可もなくという感じであんまりピンと来なかった記憶もあるけど、あまり良く覚えてない。こうやって忘れちゃうから書いておかないとだ(苦笑)。

前に読んだ本は(今、目次を見て思い出す限り)、彼女の経歴や自然死にも触れてはいるものの、全体的に一般的な人に向けた、心安らかに生きるための指南書というものだったようだ。

それに対してこの本は、「死にゆく人の心」にフォーカスしているので、若い人にはピンと来ないかもしれないけど、私のように親や自分の老いや死を考えるようになった人には、よりダイレクトに響くことが多かったように思う。読んでいるうちに、死というのが特別なことではなく、さまざまな流れの中の一瞬のことであり、そこへ向かって静かに着地していくという考え方が、ストンと入ってくるというか。

仏教の教えを含めて、すべてのことを押し付けるのではなく、「こういう考え方もあります」「私はこう感じます」という姿勢で静かに語っていて、まるで目の前でお話を聞いているような感じで気楽に読めるのでぜひ。


2019.07.12 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 読書録



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